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ユリアンの眼下で、粉屋の一家は追っ手に追い付かれてしまっていた。
あっと言う間にぐるりと十数騎の騎士に取り囲まれている。
無慈悲にも粉屋の主人が切り倒され、母親が悲鳴を上げてその上に折り重なる。
その背中に賊はためらいもなく刀を突き立てた。
「いゃぁぁぁああ!!!!」
娘の絶叫が木々に反響する。
ユリアンはかけ降りながら全身の毛が逆立つのを感じた。
彼女はユリアンにとって、ナルヴァで出来た初めての友人であり、淡い恋心を教えてくれた相手でもあった。
もうあらかたの仕事を終えたつもりなのか、それとも娘の美しさに欲情したのか、賊共は彼女に刀を振り下ろす代わりに衣服を剥ぎ取りにかかる。
夜闇の中、松明に照らされた彼女の白い乳房が浮かんだ。
暴れ騒ぐ娘のみぞおちに一人が拳を叩き込む。彼女は崩れるように、うつ伏せにうずくまった。
「ニナ!!」
娘の名を叫んだ瞬間、ユリアンの中の何かが弾けた。
「ぉぉぉおおおおおお!!!」
ユリアンの怒りに比例してか、彼を取り巻く稲光が勢いを増していく。
バリバリバリッと音がしたかと思うと、四方へ雷が走る。
幾筋かは木々にぶつかり轟音と共に裂けた。
ユリアンが驚き慌てる騎士の一隊の真ん中に飛び込んで吼えると、森が震え、木々がざわめき……
天が、裂けた──
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