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それは異様な光景だった。
村を焼き尽くした炎は辺りの木々にも燃え移り、天を焦がす勢いで火炎はもうもうと煙を吐く。
山火事は雨雲を呼んで空に低く垂れ込めていた。
その雲へ目掛けて、地上から遡るように稲妻が走る。
辺りを一瞬、昼間の様に照らしたかと思うと、ユリアンの立つ位置から半径20メートル程の範囲を円筒形に閃光が落ちた。
それは一瞬の出来事だった。
神の審判の雷もかくやと云うほどの雷光が轟音と共に全てを裂き、なぎ倒し、灼き尽くした。
抉れた地面の上には、焦げ付いた人型の炭のようなものが幾つも転がっている。
それはさっきまで、無慈悲に命を奪う者達であったし、無惨に殺された夫婦であり……
獣の欲望から逃れようとあがいていた乙女だった。
その中心で眠るように倒れているユリアンの姿を、降り出した雨が優しく包んでいく。
ボロボロになった衣服に辛うじて包まれた彼の顔に生気は無く、青ざめた唇からは息さえ感じない。
次第に下火になっていく炎からは、死者を弔うかのように細い煙りが幾筋も昇っていた。
長い夜は、ようやく終わりを迎えていた。
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