憂囚のマルリオン

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リトゥルヴァニア島屈指の先進都市。   マルリオン──     ファリア大公国の中でも三本の指に入る大都会は、朝まだきの薄もやの中でさえ活気溢れていた。   マルリオンの西端には大きな港があり、漁業や海運業が盛んで大きな市場街が特に朝の賑わいを見せている。   シーファン市場という名の市場街には中央に噴水広場があり、海龍『シーファン』の石像が観光客に人気を呼んでいる。   シーファンの鱗を撫でれば海難に遭わないとか、大漁になるとか、海に出た恋人の無事帰港を祈願する若い女性の姿も多かった。   マルリオンは海洋都市と商業都市の二つの側面を持ち、国内最大の商人ギルドを有している。   戦前は大陸との交易が最も盛んで、ユミル貝貿易などで賑わいを見せていたが、特別関税の廃止のあおりを受けて大陸との交易は下火となり、今やユミル貝は国指定商会位しか取り扱わない。   とはいえ活気は衰える事を知らず、マール公家は三大公家の中でも特に発言権を持つ最大派閥である。     その名実ともに盛んな都市に、表からは伺えぬ激震が走っていた。   都市を一望出来るリヨンの丘に立つ宮殿の中に、慌ただしく走り回っている諸侯の姿を見る事が出来る者は、運命の女神ファーミルその人以外には居ないだろう。
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