憂囚のマルリオン

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慌ただしく駆け回る諸侯の中にあって、一人どっしりと執務室に腰掛けながらマール公代理を勤める壮年の貴族が居る。   マリオン公爵が全幅の信頼を置く右腕であり、マリオン公の妹君の夫でもある男。   つまり公爵の義弟にして、後継者のない公爵の後を継ぐのはこの方しか居らぬだろうと噂される最有力候補であった。   艶やかな栗色の髪を後ろに流し、鷲のような鼻の上に横走りに短い傷痕が見える。   頑健な体をしかし政務官の服装に包み、たすき掛けに掛かっているサッシュベルトは内政官を示す緑色をしている。   ルルシュ侯爵と呼ばれる紳士は名をアリオンといい、若い頃は『音速の剣士』の異名を取った武人であった。   三年戦争にはマリオンと共に戦場を駆け抜けた古強者である。   しかし戦後の復興に尽力した政治力と広い見識を買われ、現在マール領政務長官の職にある。   彼は義弟ではあったが非常にマリオンに良く似ていた。   剛毅果断で深い懐を感じさせる茶色い瞳は、色こそマリオンとは違ったがなぜか同じ匂いを漂わせていて諸侯の信頼も厚い。   アリオンが決済書にペンを走らせている時、執務室をノックする者が居た。
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