憂囚のマルリオン

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入って来たのは執務官の一人だった。 そわそわして大分浮き足立っているが、アリオン候の前でなんとか失態を見せぬようにと懸命に自身を落ち着かせようとしているのが見て取れる。   「長官殿、ただいま諸侯が説明して欲しいと宮殿へ押し寄せ、収拾がつかぬので皆様大広間の方へお通ししておりますが、如何致しましょう」   アリオンは書面を走るペンを止めぬまま、それに答える。   「説明だと?それならば私が聞きたいくらいだ。しかし、大広間と言ったな。どの位集まって居るのだ?」   「は、マルリオンにおられる殆どの貴族の方が来られてございます。従五位以下の方々は独断でご遠慮頂きましたが」   彼は意外に手際良く非常事態に対処した様子で、アリオンも満足げに頷いた。   「勿論、誰も彼もという訳にはいかぬからな。それは良い判断だった。しかしこれは一石二鳥という奴かも知れん。こちらから非常召集をかける手間が省けた」   執務官はホッとした顔でつづける。   「ではお話頂けるのですね?旅団の使いの者は如何なさいます?」   アリオンは少し考えて、控えの間に待機させるよう指示すると、執務官を下がらせた。 やっとペンを置いて椅子から立ち上がると、大きく伸びをする。   窓の外を窺うと、朝日がいつの間にやら中天に差し掛かろうとしていた。
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