憂囚のマルリオン

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一瞬、大広間を埋め尽くしていたざわめきが止まり、静寂が訪れた。   アリオンに告げられた内容は、多くの者が噂を聞いて予め予測していた。 にも関わらず、それは全ての重臣、貴族、婦人方に恐ろしい程にショックと喪失感をもたらした。   一官僚、一兵卒にいたるまで心から心服していた偉大なる主君を、マルリオン宮殿は失ったのだ。   アリオン侯爵が続ける今後一年間の喪に服す事や、葬儀について重臣会議を行う事、今後についての諸々の注意事項を一体どれほどの人々がちゃんと聞いていたのだろうか……。   次第に広間にはすすり泣きやこらえ切れぬ嗚咽が広がっていく。   アリオンはしばし言葉を止め、寂しげな表情でその様子を眺めた。   (……これほどまでに慕われておられたものを。ファリアは大きな宝を失ったのだな……)   アリオンの胸に、寂寞たる感慨が押し寄せる。しかし彼は軽く首を振って気持ちを切り替えると、一際大きな声を上げて言葉を発した。     「諸侯に今一つ、伝えておかねばならぬ事がある。この件に関しては事が重大であるため、場合によってはファリア大公のご判断を戴かねばならぬやも知れん。マリオン公には世継ぎの御子がおられぬのは承知の通りだ。しかしこの度のナルヴァ行きにおいて、ある青年を養子に迎え入れられたそうだ」   今度は先ほどとは違う声音のどよめきが広間に響き渡った。   誰しもが、アリオンが次期マール公爵に就任するものと信じて疑わなかったからだ。
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