憂囚のマルリオン

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「皆が驚くのも無理はない。公爵様の養子となれば、我らが主君といずれ仰がねばならぬ存在、本来ならば重臣会議による過半数の賛同が必要な事柄だ。先ず家柄の調査から始めねばならぬ。マリオン様は失礼ながらあまりその様な事柄に頓着なさらぬ方だった。その様な大らかさがとても魅力的な部分でもあったのだが……」   そう言ってアリオン侯爵は言葉を切った。 厳しく引き結んだ口元から、彼がどの様な心情でいるか読み取る事は難しい。   一人の若い貴族が声を上げた。   「その使者とやらは公爵様を襲った軍隊の一味という事は無いのですか?その養子というのも怪しい。一蓮托生のグルでは無いか!?」   そうだそうだ、怪しいぞ!という声が上がる中でアリオンが執務官に何事か指示を出している。   そこに通されたのは、周囲のただならぬ雰囲気に呑まれおどおどとしている旅団の使者だった。   「ここに通した者は、間違い無くマリオン様の私設部隊である影幌旅団の一員と証明された。旅団についてはその任務の性質上、皆も知らぬ事が多いだろう。しかし彼らは間違い無く精鋭部隊であるし、団長は私も面識があるが忠義の者だ。だとすればこのファリアに弓引く者が現れたという事になる。これはマール領、引いてはファリア大公国に対する挑戦だ!家督争いなどをしている場合では無い由々しき事態に他ならない」   アリオンは声を大きくして、ざわめく諸侯に喝を入れた。 貴顕淑女が静まったのを見て更に続ける。   「ここで使者殿の話を聞かせて貰おう。質問があればこの場でして頂く。皆がこの非常時に知恵を出し合って難局を乗り切って行く事を期待する」
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