憂囚のマルリオン

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どよめきは収まる気配が無かった。 アリオンの言いようでは、まるで得体の知れぬ新公爵を容認しているようにも聞こえる。   アルシウスは抑える事が出来なくなって思わず叫んだ。   「父上はどこの馬の骨とも知れぬ輩を我々の主公と仰げと言われるのですか!?皆は父上こそ次期マール公と頼んでおりますのに!」   アリオンは上気した息子の顔を厳しい目つきで見つめると、冷厳な声で叱責した。   「控えろアルシウス。養子に迎えられたのは他ならぬマリオン様だ、その遺志は尊重せねばならぬ。しかし皆も気になるようだ。使者殿、先ずはその若者とは何という名でどの様な人物か教えてはくれまいか?」   旅団の使者はこの様な展開におののきながらも、何とか質問に答える。 アルシウスは苛立たしげに腕組みしてそれを見守った。   「は、は、名はユリアンと申す若者にございます。しかしながら実はわたくしも良くは存じません。我らが団長よりの使いの者が、カレントにて待機中だった副団長宛に今回の情報をもたらしたもので……。その使いはナルヴァの農村の若者で、今回のナルヴァの変事の数少ない生き残りでございます」 ナルヴァの生き残りと聞いて、皆がざわめく。使者の男はざわめきが静まるのを待って、口を開いた。   「恐らくもう団長一行と合流してマルリオンに入られる頃かと思いますが……団長より副団長へ宛てた手紙を読み上げてご覧に入れましょうか?」     使者は何とか自らの責務を全うしようと懸命だった。   一同、期待顔で待っているのを見てアリオンが頷く。     その時だった。   大広間を閉ざしていた扉が大きく音を立てて開かれ、数名の人が入って来るのが見えた。     「その手紙、読み上げるにはおよびません。影幌旅団団長クラトが参上つかまつりました。おのおのがた、ご説明はわたくしより致しましょう」
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