憂囚のマルリオン

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どこまでも青く輝いていた海にオレンジ色を写しながら陽が沈んでゆく──。     白い翼を広げていた海鳥達も、灰色のシルエットをおのが寝床へと遠ざけている。   いつの間にかマルリオンの街影に気の早い灯が点り始め、夕餉の準備に家々からは煙が立ち昇っている。   ユリアンは一人、宮殿のあてがわれた一室の窓を開き、むせかえるような夏の風を感じながら都の様子を眺めていた。     本来ならば初めて訪れた大都会に飛び出して、心ゆくまで探検したかったし、市場の屋台から漂う美味そうな匂いに釣られてビタ銭を放り、串焼きに手を伸ばしていたに違いなかった。   離宮の坊ちゃんとして育ったとはいえ彼はいつも村に居たし、どちらかと言え庶民的なものを好んだ。   手の込んだ冷たい料理より、ナルヴァ祭に出る屋台料理を楽しみにしていたのだ。   彼の為に用意された豪華な料理はあまり手を付けられぬまま、テーブルの上に置き去りになっている。   他にする事も無いままユリアンは徐々に暮れなずんでゆく景色を眺めていた。   トン、トン── ノックの音にハッとすると、クラトが入ってきた。   「お食事は取られないのですか?口に合わなければ違う物を用意させますが」   心配顔で尋ねるクラトにユリアンは微笑みかける。   「大丈夫だよ、クラト。ちょっと食欲が無くて……。ところで会議は終わったの?」
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