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だから、まだ、死ねない。
自分が死んでしまったら、龍樹を託せる人がいなくなる。
龍樹を、唯一の幼馴染を、一人ぼっちにさせるわけにはいかない。
「しっ……仕方が、なかったんだもん………っ!!」
両手から力が抜けて、拳銃が重い音を立てながら足元に転がる。
「連絡するより前に、連れて来られたんだもん………っ!!」
無理矢理笑ったつもりだったのに、その顔を龍樹に向けるよりも早く膝から力が抜けてしまった。
緋姫を放り出した龍樹が、綾の目の前に滑り込んで崩れ落ちる綾の体を抱き留める。
「だから、私、一人でも、生きて帰るつもりだったんだから……っ!!
たっちゃんの所に、帰る予定だったんだから……っ!!」
伝わる温もりに涙腺が一気に緩んだ。
それが分かったのか、龍樹は左手を後頭部に回すと、そっと綾の顔を胸にうずめるように力を込めた。
「お前は……もっと俺を頼れ」
促す手に甘えて、綾は龍樹の胸にすがりつくと無言のままむせび泣いた。
ハタハタと龍樹の制服にしみこんでいく涙はありふれた学生生活のひとコマにあってもおかしくない光景なのに、それを取り巻く環境はあまりにも特殊だった。
「お前が生きていてくれるなら、俺は、どれだけ使われたって構わないんだから……」
ギュッと強まる龍樹の腕の力は、綾の血濡れた生を肯定していて。
その強さとぬくもりに安らぐ自分はやはり歪んでいる。
そう思いながら綾は、気を失うまで泣いていた。
《END》
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