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綾の予想以上に敵は綾の元に迫っていた。
凍りついたように綾と相対した敵が、わずかに首を巡らせて綾に顔を向ける。
背中から激しく、朱色の飛沫を上げながら。
「どうしてお前はっ!! こういう時に限って何も言ってこないんだっ!!」
金気臭い朱色のカーテンの向こうに立っていたのは、綾が何度も脳裏に思い浮かべた相方だった。
いつでも冷静沈着を絵に描いたような態度を崩さないくせに、今の龍樹は仕事服さえまとわず、手に緋姫だけを携えて肩で息をしている。
ひとまず武器だけ手に取ってここへ急行してきたのだということは、その険しい表情を見れば説明されなくても理解できた。
「黒羽からリークがなかったら間に合わなかったかもしれねぇんだぞっ!!」
何に、ということを、龍樹は口にしなかった。
綾は呆然と周囲に視線を巡らせる。
はるか向こうに、焼け焦げた通路。
そこから点々と、綾が今いる位置に向かって、人だった塊が転がされている。
鋭利な傷口と零れ落ちる深紅は、全て龍樹の仕業だと分かった。
神速で振るわれる日本刀を前に、最新鋭の武器など無意味だったということか。
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