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”誰か助け・・て・・”
”ユウト!マークが・・おお!何てこと。マーク、あなたはなぜ・・”
勇人は手にしていたコーヒーパックを放り出すと、急いでコックピットの多画面ディスプレイの前に立って呼びかけた。
「どうした、イブ?! マークに何があった。」
スピーカー越しにすすり泣きが聞こえる中、勇人はディスプレイを睨みながら叫んだ。
「タキオン、一番ハッチの外側の映像を出してくれ。」
”リョウカイシマシタ.”
人工的な声が答えると、すぐにディスプレイに船外に広がる漆黒の宇宙が映し出された。
命綱を付けた宇宙飛行士が、一番ハッチのすぐそばで身動きせずに宙を漂っている。
「マークの動きが妙だ。タキオン、マークの顔を呼び出せるか。」
”リョウカイ.”
「ウツ・・・。」
勇人は胃からこみ上げる吐き気を抑え込んだ。
少し前まで、デッキで冗談を飛ばし合っていたマイクの変わり果てた姿が画面に大写しになった。
ミイラのように干からびた顔。その表面には飛び散ったとみられる真っ赤な血がキラキラと氷結し、飛び出した眼球はあらぬ方向に向いていた。
苦悶の表情が張り付いたままのマークの顔に、薄っすらと霜が降りている。
勇人は目を背けると、一番ハッチの内側でマークのサポートに入っていたイブに呼びかけた。
「イブ、大丈夫か。一体何が起きたんだ。」
”・・・・。分からない。どうしてこうなったのか。”
勇人は一番ハッチに移動すると、項垂れているイブを何とかなだめてマークの遺体を回収しコックピットに戻ってきた。
「イブ。何が起きたか落ち着いて話して欲しい。」
イブは、瞳に涙を貯めながら頷いた。
「エアロック内のチェックでは、異常は無かったのよ。それなのにハッチを開けてマークが船外に飛び出した瞬間、宇宙服の首の後ろにある通気弁が開いてマークのヘルメット内部から空気が漏れ出して・・・。」
漏れ出したのはヘルメット内の空気だけでないのは明らかだった。
恐らく、マークの体内のありとあらゆる液体と気体が一瞬のうちに通気弁から宇宙空間に噴き出したに違いなかった。
「原因は誤動作によるものだろうか、それとも・・・。」
「宇宙服の通気弁は内側からしか操作できないわ。本人が開けたとしか考えられない。」
「マーク自身がかい? そんなバカな!」
勇人は吐き捨てるように言った。
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