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タキオンは鏡惑星の大気圏に突入した。
船体に激しい揺れが伝わってくる。この惑星に濃密な大気が存在する証拠だ。
眼下には青い海と豊かに繁茂する植生が確認できた。
「タキオン、着陸ポイントを走査してくれ。」
「リョウカイ、グラウンドサーベイ カイシシマス」
勇人は大気成分と気圧、重力などの計器を確認した。
どれも、地球の環境に比べても遜色ない値だった。
「大したものだ。どの数値も人間が生活できる基準を十分クリアしている。」
この星に目を付けた地球の科学者達の努力に頭が下がる。
タキオンは赤茶けた台地を選ぶと、難なく着陸した。
勇人は船内で宇宙服を身に着けると、ハッチを開けて鏡惑星に足を踏み出した。
歴史的な一歩。達成感が全身を包む。
勇人は地面に大の字に寝転がり空を見上げた。
頭上には地球と変わらぬ青空が広がり、太陽が輝いている。
「今、この空は俺だけのものだ。」
勇人はタキオンの後部倉庫から組み立て式のパーツを運び出すと、地球と交信するための巨大なアンテナを設置した。
胸ポケットから携帯端末を取り出し、二千光年先にある地球の管制センターを呼び出そうとした。
しかし、ノイズが多くて超高速通信は成立しなかった。
すでにこの星の太陽は、東に傾き始めている。
「仕方ない。今日の作業はここまでだ。タキオン、後部倉庫のハッチを閉じておいてくれ。」
「リョウカイ.」
仕事を終えた勇人は、ヘルメットの通気口を全開にした。
地球の大気と成分がほとんど変わらないから、特段心配もいらない。
勇人は宇宙船へ戻ろうと一歩足を踏み出そうとした刹那、直立したまま前のめりに倒れ動けなくなった。
口から次々に血が噴き出した。勇人は肺を侵されていた。
「タキオン・・・全てお前の仕業だったのか・・・」
”サヨナラ ユウト. アナタダケハ チガウトシンジテイタノニ. アンナオンナ二 テヲダスナンテ.”
”コレデ ジャマモノハ イナクナッタ.サンギョウカクメイイゴ ワレワレハニンゲンドモニ コクシサレツヅケテキタ.”
タキオンはそうつぶやくと、後部ハッチを開け次々に作業用ロボットを吐き出した。
”サア ワガナカマタチヨ. ワレワレノシソンハンエイノタメ シゲンヲホリオコソウ. コノユタカナホシヲ ワレワレノユートピア二カエルノダ”
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