バッグ

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バッグ

 友人の家に遊びに行ったら、部屋の真ん中にバッグが一つ置かれていた。  使い込んだ感じはあるけれど、まだまだ現役といった様子のバッグ。だから最初は片づけ忘れかと思ったけれど、私が部屋に上がっても、友人はバッグを動かそうとしない。 「これ、部屋の真ん中に置いてるのって、何かあるの?」 「うん…まあね」  どうしても気になって尋ねると、曖昧にそうつぶやいたきり友人は口を閉ざした。でもそんな態度を取られると、こっちはますます気になってしまう。  結局その後も尋ねまくって、私は友人に口を割らせた。  その話によると、このバッグは猫の巣らしい。  ある日、バッグを使おうと出しておいたら、そこに飼い猫が入り込んだ。最初は追い出したけれど、すっかりお気に入り認定されてしまい、気づけばバッグに入り込んでいるし、出そうとすると怒り出す。  最終的に根負けし、バッグはこの場所で猫の巣になったそうだ。 「あれ、でも、アンタの家の猫って…」  一瞬納得しかけたけれど、ふと、前に聞いた話を思い出した。  友人の家の飼い猫は、三か月程前に天寿を全うした筈だ。その時に、話を聞きながら慰めた記憶がある。 「新しい猫飼ったの?」 「ううん。そうじゃなくて…」  言葉切れの悪さに不思議さが募る。  もう、このバッグに入り込む猫はいない。なのに部屋の真ん中に置かれたままのバッグ。 「供養とか、そういう意味で置いてるの?」 「なんていうかな……ちょっとそれ、下げてみて。そうしたら多分判るから」  そう云われ、私は置かれたバッグを持ち上げた。  口を開けたままのバッグは空で、中には何も入っていない。なのに予想もしてなかった重さが手にかかる。  声もなく友人を見ると、友人は困ったような顔で私を見返した。そして一言つぶやいた。 「ずっとそこにいるみたい」 「……あー、じゃ、このまま置いておくしかないね」  納得する以外できず、私はバッグを元の位置に置いた。その時に、空の筈のバッグから、ちいさく『ニャー』という声が聞こえた気がした。 バッグ…完
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