第1章

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 日曜朝7時。窓を開け、肌寒さを感じながら外気にあたる。辺りはまるで深夜のような静けさに包まれている。庭と道を挟んで向かい側の家からは、昨日ずいぶんと遅くまで大学生らの陽気な笑い声が聞こえていた。飲めや歌えやのバカ騒ぎの後、タオルケットと宴の余韻に包まれて、赤子のように眠りこける彼らを思い浮かべる。  トイレから出ると、0歳児だった頃の息子と目が合う。トイレの真向かいに位置する彼の部屋のドアには、ゴムでできたオムツ姿の赤ちゃんの写真入れが2本の釘に支えられてぶら下がっている。パステルグリーンの足と、ブルーの腕、胴体部分は柔らかなクリーム色だ。顔の部分だけ写真を入れられるようになっていて、そこには、まだ一本の歯も生えていない、つるっぱげの息子がはにかんでいる(なかなか生えてこない髪の毛のことを、当時私はかなり心配した)。  一心不乱に寝ているベッドの中の息子を見て、一気に現実に引き戻される。大きくふっくらと丸かった顔は小さくしゅっと面長になり、キューピーちゃんのようにポコンと出ていたお腹は、いつの間にか真っ平ら。日々着実に細く長く縦に伸び続ける偉大な生命力。ここ数年、日々着実に横にのみ広がり続ける母にとってはうらやましい限りだ。  私を見上げる視線が見下ろす視線に変わったのは去年のことだったか。変化の激流は、外見だけでなく、彼の内側にも怒涛の勢いをもって押し寄せているのだろう。ある時は激流に身をまかせ、またある時は激流に飲み込まれ、さんざん翻弄された挙句、彼はどこにたどり着くのだろうか。楽しみに見守りたい。
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