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「誰か助けて!」
彼は部室内で逃げていた。日差しが強くなり、間もなく夏休みが始まろうとしてたある日、
「いい、目立つ売り子ってのは重要なのよ。いくら絵がうまくても、所詮うちらは壁連中には遠く及ばない無名集団。ならば売り子で目立つのも一つの手なのよ」
と言って、部長が拘束具のようにメジャーを手に彼の女装用の衣装の採寸をしようとして、それから彼は逃げていた。
「いや、あの、そもそも売り子と俺の女装が、どういう関係が」
「あんたは背が低くてかわいいからきっと似合う。絶対にウケル」
「そんなの知りませんって」
「この夏の売り上げの一部が部費になるの。うちはそういう部なのよ」
「だから、部費のために女装しろと」
「あんただって部室に置いてある漫画雑誌読んでるでしょ。その購入資金の出どころは夏と冬の祭りからなのよ。つまり、今度の夏の祭りで売り上げが低ければ購入できる雑誌も減るのよ。ま、そんなに嫌がるのなら、男子が女装する代わりに女子は男装するってのは、どう? これなら、公平でしょ」
「女装するくらいなら、部費なんか知ったことじゃないです」
男にとって女装とは、名誉なことではない。友人知人に知られたら笑われる類ものである。彼はついに部室を飛び出そうとしたが、ちょうど副部長と出合い頭にぶつかりそうになる。
「あ、捕まえて」
部長がすかさず命令し、彼より背が高く、バレー部も兼任している副部長ががっしりと捕まえる。
「え、ええ・・・」
彼は驚いたが部長から事情を聞いた副部長は、「なら、仕方ない」と彼を部室内に連れ戻す。
「体育会系の部活と違って文系の部活は始めから予算が少ない、スポーツの方が派手で、こっちは地味だからな」
副部長が、彼を説得するようにいう。
「男子が女装で、女子は男装で売り子、いいじゃないか、公平で」
副部長が同調し、彼の目線が助けを求めるように同じ一年生部員の私を見るが、私も副部長と同じ感覚で、いいじゃないか女装くらいという顔をしていた。
彼は文芸部唯一の男子である、はじめから味方がいるはずなかった。
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