第3章 クローゼットの中の敵

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わたしはぞっとして、嫌悪感で身体が震えた。 「卑怯じゃないですか」 「本当ね。自分の人生にこんなことが起こるのかって、目の前が真っ暗になったわ。…でも、それはそれとして。これはチャンスなんじゃないかと捉えることにしたの」 「…は」 話が急旋回して、ついていけずぽかんとする。…チャンス、ですか? 彼女は悪びれずまっすぐ綺麗な目でわたしを見据えた。 「だって、相手するのはみんな、芸能関係者やそのスポンサーばかりなのよ。学校が厳選してるから、雑魚や有象無象の顧客はいないわ。こんな片田舎に引っ込んでたらいち学生が直接対面する機会なんかない人ばっかり…。わたしなんか、他の女優の子に較べて強烈な個性や売りもないし」 「そんなことないです、お綺麗ですよ、すごく」 わたしは熱を込めて言った。彼女は微笑んでそれを軽くいなした。 「ありがと。でも、自分でもよくわかってる、ちょっと綺麗なだけじゃここでは目立てないんだって。みんな綺麗な子ばっかりだもの。…だったらこういう場でも、誰かに気に入られたり何かとっかかりがあれば…、って考えちゃって。実際、結構大物の人でわたしを気に入って通ってきてくれるお客さんも何人かいるし。芸能界でのいろんな話なんかも聞けて、刺激もあるわ。同じ境遇の子と話しても、結構そういう考え多いわよ。だから、単純にこれをなくそうとしても難しいんじゃないかしら。需要と供給で成り立ってるものだから」 …わたしは言葉に詰まった。 初めて聞いたあの音声データを思い出す。奨学金の停止を告げられ、藁をも掴む思いで裸の写真を撮られていた女の子。彼女みたいな苦しんでいる子を助けられたら、と思ってた。けど。 これを割り切って利用しようなんて、そんな考え方があるなんて、本当に思いもよらなかった…。 「まあ、それはそれとして。どっちにしろこの接待の習慣自体なくすのは難しいと思いますが。一朝一夕にはいかないと思うし。…でも、女の子を引き込むのにああいうやり口はちょっと。最初から納得ずくなら仕方ないけど、不本意な人がなるべく出ない方式にしてほしいなぁと思うんですけど」 ややあって考えつつわたしの意見を述べると、彼女も素直に頷いた。 「勿論よ、そのこと自体は異論ないわ」 わたしはほっとして肩を下ろした。 「じゃあ、どういう方式になるかはともかく。あとはどっちにしろわたしとこいつの出番じゃないんで」
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