第3章 クローゼットの中の敵

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竹田の方を顎で示す。 「あとは後ろの人に交渉を任せて引っ込むことになります。そういう女の子の意見もあるってこと、伝えておきます。何か他にそっちに知らせておいた方がいいことってありますか?」 「こういう接待って、こうやって一対一で呼び出される方式?他に何かさせられることってあるんですか?」 竹田が参考までに、といった口調で尋ねる。真凛さんは首を傾げ、目線を泳がせて答えた。 「あと、主なのはパーティかな。この会館のホールに、お得意様と女の子が集まって、お酒を飲んだりいろんな話したり…、そこで気に入られると、個室デートっていう名の」 「はいはい、わかりました」 わたしは慌てて遮った。みなまで言わなくてよろしいです。 「でも、個室はともかく、いろんなお得意様と話せるし、他の女の子たちと顔をあわせる機会でもあるし、意外に楽しいわよ。小川さん、千百合ちゃんだっけ?あなたも潜入捜査ってことで来ればいいのに。いろんな話聞けるわよ、何か役に立つことあるかも」 「いやいやいや、そういうのは…」 わたしはベッドの上で後ずさるほどのどん引き振りで否定した。第一もうお役ご免だよ。これ以上は無理。竹田も援護射撃のつもりか話に割り込んできた。 「大体、女優さんたちの中に入ったらこいつどんなに目立つかって。なんせつい最近までスポーツブラに男物シャツのどすっぴんで、小学生男子もかくやの女っぷりでしたからね。俺がやっとここまで仕上げたんですよ。結構可愛くなったじゃんと自負はしてるけど」 何でお前が得意げなんだよ。真凛さんにしげしげと見つめられ、恥ずかしい。 「全然可愛いじゃない。男の子には見えないよ」 「でも、まだスカートとかはNGなんですよ。髪もだいぶ伸びてきたし、もっと女っぽい格好させたいなぁと思って。…あ、今のこのカッコは勿論変装ですけどね、清掃業者の。だからそろそろ、ミニスカートにレギンスくらいから始めようかと」 「やだって、そんなの」 「いつまでもデニムパンツ一本やりじゃバリエーションがないよ。絶対スカート。脚見せろって」 わあわあやり出すわたしたちを微笑ましげに見つめ、まあまあと彼女は双方を宥めるように口を挟んだ。 「千百合ちゃんは今のままでも可愛いわよ、すごく。てか、顔立ちは充分綺麗だし、個性的だから、女優に混じっても結構引けを取らないかもよ。変な話だけど、絶対お客さんだってつくし」
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