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「いえそれは要らないですけど」
わたしの突っ込みに構わず真凛さんは目を細めてわたしをつくづく見回した。きっと頭の中で何か取っ替え引っ替え着せてるに違いない。
「…首筋が綺麗だから、肩の出るドレス着て。シンプルにさっとお化粧して、ナチュラルな髪で。…うん、いいわ。絶対人気出る。てか、スカートもちゃんと挑戦しなさいよ。思ってるほど違和感ないわよ。あれって楽なのよ、案外。パンツスタイルより」
「え、そうですか」
『楽』の一文字に何より弱いわたし。
「そうよ、とにかく一度着てみなさいって。その彼に見立ててもらって、アドバイスもらうといいわ。男の子だって今より絶対寄ってくるわよ。男ってやっぱりスカート好きなのよね。スカート穿いてると、女の子としての信号出してると見なされるのかな。なんか、声をかけやすいと思うみたい。千百合ちゃんならうるさいほど口説かれるわよ、きっと」
「…あーならいいです…」
話半分以下に割り引いてもなんか面倒そう。メリットは感じない。しかも何故か、さっきまであんなに熱弁していた竹田の方も、どういうわけか不機嫌そうに黙り込んでしまった…。
「…小川」
久しぶりの声に振り向く。大学の廊下で、少し早歩き気味に後ろから近づいてくる立山くんを認め、わたしは歩調を緩めた。
「ちょっと間空いちゃったけど。…元気か」
「うん。立山くんこそ。忙しいの?」
あの後はデータがちゃんと彼のところに届いたか確認したり、真凛さんと話した内容を伝えてデータを参考までに送ってほしいと依頼したりを全部メールで済ませたので、顔を合わせるのは実際久々だ。九月公演についても、演目やキャスティングなどぼちぼち決まり、そろそろ他のスタッフも全部揃え終わったら最初の全体顔合わせかな、という段階で、正直まだ舞台美術担当はそれほど忙しいとは言えないし。
廊下を歩きながら、彼はさっと前後を気にしてから先日の話を口にした。
「…この前は、本当に。…危ない目に遭わせて、悪かったな」
「別に危なくなかったよ、全然」
彼は切れ長の目をやや尖らせてわたしを見た。
「結果、だろ。女の子には気づかれたわけだし、本当に危険だったんだ。彼女が何かいるって顧客に訴えたり、顧客が自分で気がつく恐れだってあったわけだし。生きた心地しなかったよ。…もうあんなことさせないから、絶対」
「竹田にはその場に残れって言ったくせに」
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