第3章 クローゼットの中の敵

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それについては今思い出しても承服しかねるので。つい口にすると、彼は無表情に首をすくめた。 「残れとは言ってないよ。何が何でも小川を逃せ、って言っただけだ。もしあいつが捕まっても、何とか裏からでも手を回して退学にならないよう働きかけるつもりだったし、最悪そうなっても今後の身の振り方まで全部面倒見ようと思ってた」 「だったらわたしもそれと同じでよかったじゃないですか」 まだ納得できずに反論すると、立山くんは不意に足を止め、静かにわたしをじっと見て口を開いた。 「駄目だ、同じじゃない。あんたは女の子だから。取り返しのつかないことになる可能性だってあった」 「そんなこと」 わたしはもやもやしたものを抱えつつ、黙った。わたしなんか大して女の子に見えないだろ。女優の彼女らと同じような目になんか遭うわけない。それに。 …わたしのことを本当に女の子だと思うんなら。何であんな場面で、あいつと二人で狭い場所に閉じ込めるような真似したのよ。 一瞬、あの時の情景や感覚がフラッシュバックのように生々しく蘇りそうになり、慌てて意識を逸らす。立山くんの隣にいる時にこんな感覚は思い出したくない。 文句を言っても仕方ない。起こってしまって、もう終わってしまった。割り切るしかない。それに。 二人並んで再び歩き出しながら、内心で肩を竦めた。正直なところ、それほど嫌でもなかった。とにかく、あの瞬間は。 自分の中にあった、今まで顧みることも全然なかった部分に気づかざるを得ない。こんなことはまだずっと先まで考えなくていいと思い込んで、放置してたのに。 「…怒ってるか、小川」 立山くんの平静な声にふと我に返る。こっちに視線を向けもしないが、何処か心配そうにこちらを気遣ってるのがわかる。わたしは肩の力を抜き、首を横に振った。 「怒ってないよ」 わたし、この人と喋るとき、タメ口と丁寧語ごっちゃで滅茶苦茶だな。どういうスタンスで接していいか、まだ判断つかずにいるのかもしれない。 「あんたや竹田のことを粗末に扱うつもりじゃなかった。でも、そう感じたんなら謝るよ。謝っても納得はしてもらえないだろうけど」 「そんなことない。ちゃんと身の安全のことまで考えてもらったと思ってる。それにこれに関わったのはわたしの選択したことだし、自分で」 わたしは少し話題を変えるように話を振った。
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