第3章 クローゼットの中の敵

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考えあぐねつつ一気に喋って、缶コーヒーを一口飲んだ。 「だから、仕方なくそう考えるようになったのがいつしか本心のようになってるだけかも。それで自分の精神を守ってきたのかもしれないし。勿論本気でそう思ってる部分もあるだろうし。わたしには何とも、…同じ立場には立てないから。だから、価値判断はしません」 「うん」 メロンパンを食べ終わった彼はくしゃくしゃと音を立てて袋を丸めた。わたしはパンの入っていたビニール袋を差し出してそれを中に片付けさせる。 「俺も同じだ。それがいいとか悪いとかは思わないよ」 飲み物を一気に飲んだ。横から盗み見るわたしは再び内心思う。…だから何でまた。いちご牛乳? ブラック無糖しか受け付けない缶コーヒー好きのわたしは密かに考える。もしかして、見かけによらずまさかの甘いもの好き? 「まあこれで、あんたとの間は普通に同級生の、九月公演のグループ仲間に戻るよ。そっちもよろしくな」 「演目決まったんですよね」 普通の話題にもどり、微かな緊張が解ける。心なしか声の大きさも普通に戻り、気づかないうちにずっと声を潜めてたんだな、と考えた。 「もうすぐ脚本第一稿上がってくるよ。ざっとキャスト考えて、今俳優もあちこち声かけてる。メインのスタッフもあらかた決まってるけど、まだサブまでは全部埋まってないから。誰か推薦したい奴いたら早めに言って」 「わかりました」 卵サンドの袋をくしゃっと潰し、次の海老カツバーガーのパッケージを剥きながら思い巡らす。板橋を大道具に推薦しようかな。うちのグループは出足が早かったけど、他はまだうろうろ迷ってる連中が多いので、特に他所から引きは来てない筈だ。奴とは気が合うし話が通じやすいから、今回はわたしが舞台美術のメインで奴に大道具の責任者を頼んで、次の公演はよければ逆にしてもらってもいいし。 「…そう言えば、あの仕事にわたしを絡ませたのは身が軽いから、ですよね。それが理由でわたしに目をつけて、その結果他人に言えない仕事をさせるからまずグループを一緒に組んでわたしを抱き込もうと思ったの?」 思ったことがぽんと軽く口から出る。 「仕事はもう終わったわけだし、特に抱き込まれなくても他の人に何か話したりしないし。舞台美術は本当にわたしでいいの?そんな成り行きで決めたんなら何か悪い気がして」 「何言ってんだあんた。それはそれ、これはこれだろ」
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