第3章 クローゼットの中の敵

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そのしばらく後、何とかグループメンバーも概ね決定し、初の顔合わせが無事実施された。会議室を借りてそれなりの人数が集まり、演出の長峰さん、プロデューサー兼任の立山くんが前に立って演目の概要や今後のスケジュールを説明し、各々が短く全員の前で自己紹介をしたあと、各担当ごとに分かれてより具体的な話をする。わたしは成り行き上舞台美術の総監督になってしまい、内心呻きつつ大道具、小道具担当も集めて今のところ決まっていることや今後の見通しを話した。 「こんな感じでやってこうかなぁと思ってるけど。まだ時間もあるので、みんなの意見も参考にしてガンガン手を入れてくつもりです。なるべく負担少なく、余計な手をかけず、合理的に。…なにか思いついたらあったら気軽に声かけて下さい。んじゃ」 参考までに叩き台として自分でざっくり描いてみたラフのデザイン画も見せ、話を切り上げると大道具担当になった板橋美希が思わず、といった感じで笑った。 「相変わらず話が早いね。男らしいな、ちゆ」 「そっか、千百合ちゃんだからちゆちゃんか。見た目は全然男っぽくないのにね。ちっちゃくて可愛いのに、豪傑なんだな。なんか、いいね」 別のクラスの顔見知り程度の男の子が感心したように言い、どさくさに紛れて頭に馴れ馴れしく手を置いてくるのを容赦なく指先でピン、と跳ね飛ばし、振り払う。こんなの放っとくと舐められるからな。最初が肝心。 ある程度劇が固まらないと動けない部分もあるので、次の打ち合わせの日程を決めて連絡先を交換しその場は終わった。板橋と飯でも食うか、と顔を上げるも奴は既に見当たらない。何て奴だ。もう誰かと仲良くなって消えたか。本当につるみにくい女だ。 その代わり、目線のすぐ先に竹田の姿が見え、思わず内心唸る。そうか、メイク・衣裳も打ち合わせ終わるの早いよな、まだ。気がつかないふりをして背中を向けようかと思ったらつかつか近寄ってきて、がっと肩を掴まれた。 「…もう打ち合わせ終わった?千百合。ちょっと、これから俺の部屋に来ないか。一回ちゃんと話したいから」 …あーあ。 ついに来たか。わたしは観念して頷いた。日常から外れたちょっとした冒険の、これが置き土産ってわけだ。周囲の好奇な視線をちらちら浴びながら、わたしと竹田は会議室を後にして学生寮の奴の部屋に向かった。
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