第4章 恋する大型愛玩犬

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竹田はずっとわたしの手を放さなかった。そう言えば初対面の日もこんな風に腕をぐいぐい引っ張られて連れ去られたな。でも今回は手を握られている。そこが違いか。男と手を繋ぐなんて実に久しぶりだな。小学生以来かもしれない。大人になってからは女の子とだって繋いだことない。当然か。 「…話って何」 正直あんまり聞きたくはないが。あまりにも向こうが無言のままなので、いくら何でもちょっと間が保たない。奴はこっちを振り向きもせず、足も緩めず短く答えた。 「こないだの…、続き」 わたしは口を噤んだ。まあね、そうだろうね。 あのクローゼットの中での出来事以来、ほぼ毎日顔を合わせてるにも関わらずわたしたちがそのことに言及することはなかった。でも、小さな暗雲のように二人の間にもやもやと立ち込めているのはお互い承知してた、と思う。 毎朝の髪のスタイリングと服のコーディネートチェックは相変わらず続いていた。奴がわたしの髪を梳き、寝癖を直し、髪型を整える。初めて会った時よりはかなり伸びたので、切り揃えられてショートボブくらいの長さになっている。そんなに弄る必要のない髪型だとは思うが、毎日手を入れたがってきかなかった。 「寝癖くらいいくら何でも自分で直すよ」 と言っても、 「いやお前は信用ならない。ちゃんと毎日俺に見せろ」 と言い張るのだが、丁寧に熱心に髪を梳くだけ、という日がほとんどだ。時折うっとりした表情で髪を指先で梳く。 「…うん、サラサラで綺麗だ。お前、今までろくにコンディショナーもトリートメントもしてなかったな。全然髪質違うじゃねーか」 そう言ってそっと頭に唇を寄せる。 「…本当に綺麗な髪だ…」 そのたびわたしは内心で冷や冷やする。こいつ、決壊して何か言いだしたりしないよな。行動起こしたりするなよ。朝だぞ。 服のコーディネートだって、そんなにすごく枚数があるわけでもないし、パターンは大体把握したから自分でも出来そうだと何回か申し出てみたのだが、とにかく俺にやらせろと言ってきかない。サイズは把握してるので、時々新しい服を持ってきて、 「どうだ、これ。千百合に似合うと思って。着てみて」 と言って渡し、その場で(というか、いくら何でもバスルームで着替えるけど)着させて 「ああ、…やっぱ似あう。可愛いなぁ…」 と、何かがだだ漏れた表情で呟き、本当にこっちは心底生きた心地がしない。お前、初対面の時と人格違うぞ。
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