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「こういう現状をよく思ってない人がいる。その人は大学とそこの改善を掛け合うために、こういうことが行われている確実な証拠が欲しい。その意向を受けてあなたたちが動いたってことね」
「大体そんなとこです」
わたしは肩を竦めた。立山くんの名前は出さないで乗り切ることにした。そこまでぶっちゃける必要はないだろう。この人は一応わたしたちを信じてこっちについてきてくれたけど、話した内容が絶対大学側に伝わらないとも限らない。
彼女は竹田が手にしているペンを再度見遣った。
「その映像を交渉に使うってわけ?」
わたしの胸ポケットにもうひとつ、ミントの箱が忍ばされていることは彼女には伝えていない。何がこの先起こるかわからないし。
「そういうことになると…。絶対にそれ以外の人の目に触れることはないと思います。藤波さんの顔や個人が特定できる箇所は編集してくれると思いますし。おっさんの顔が撮れてて、何が行われてるかがはっきり伝われば用は足りるんじゃないかと」
彼女はわたしの目を覗き込んだ。
「…その人は信頼できるの?」
「は」
真正面から問われてちょっと息を飲む。真凛さんは大きな黒い瞳でひたとこちらを見据え、真剣な声で尋ねる。
「その人は男性?女性?わたしは何も知らないのに、その人を信用してその映像をその手に渡さなきゃいけないの?何に使われるか本当にはわからない。流出させられるかもしれないし、脅迫されるかも。…それをそのままわたしに渡してはもらえない?」
内心、そうしようかと思った。そうしたら彼女は安心できるだろう。でも、本当はそういうわけにはいかない。このデータは通信で既に立山くんのパソコンに送られてる筈だ。わたしたちがこれを回収するのに腐心したのは機器をその場に残せないからで、音声と映像を彼に手渡す用はもう済んでいる。つまりこれを渡してももう遅く、そのことを知らせないで彼女を表面だけ誤魔化して安堵させて帰すのは何だか卑怯な気がした。
「その人はきちんとした目的以外にはそれを使ったりしない人物です。その点は絶対に信用できます。信じてもらうしかないですけど」
わたしは彼女の目をまっすぐ見返した。彼女も目に力を込めて視線を負けずに返してくる。
「そうなの?…でも、例えば。男の人だったら、それはそれとして、自分の愉しみのためにそれを観るかもしれないわよね」
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