第3章 クローゼットの中の敵

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彼女はちょっと憂鬱そうに顔を曇らせた。 「そんなこともわたしは我慢しなきゃいけないの?みんなの目的達成のために?」 でも、あなただって被害者の一人じゃないですか。こんなこと、やめさせたくないの?という気持ちをぐっと抑える。自分を落ち着かせ、冷静な口調で答えた。 「その人は絶対にそういう目でこの映像を見たりもしないと思います」 真凛さんはくっと皮肉交じりに眉を上げた。 「そうなの?…聖人君子?」 そうじゃない、とも言い切れないが。まあ仮定としては彼も普通の二十歳の男と考えるべきだろう。それでも。 「…彼は、そういう必要がある時には、そういう目的で最初から作られた素材をちゃんと使用すると思う。不本意なことをされて撮影されてることを知らずに映ってしまった人にそういう感覚を持ったりしない人間だって断言できます」 「お前、あいつ滅茶滅茶信用してるな」 竹田の馬鹿が口を挟んできた。わたしは思わずそっちを軽く睨む。それ以上余計なこと言うなよ。彼の身元がばれるだろうが。 「やっぱりあいつのこと好きなの?」 「何訊いてんだよ。そういう問題じゃないじゃん」 こんな場で緊張感ゼロの質問すんじゃないよ。どうでもいいし。 「ただあたしは、彼のことをそういう人物だって判断してるってだけ。後で思い返して自分に恥ずかしくなるようなことはしない。自己嫌悪の元になるようなこと、後悔しなきゃならないこと、格好悪いことはしない。それくらいの自制心はある人だと思う」 「悪かったね、自制心がなくて」 俯いてぼそぼそ呟くの止めて。それに、それは後悔してるってこと?…それもちょっとむかっとくるなぁ。 真凛さんは少し肩の力を抜いたように見えた。ため息交じりに言う。 「…わかった、そこまで言うなら。その人のことは知らないけど、あなたを信用するわ。でも一応、その映像がどんなものかは見せてもらいたいの。何がどんな風に映ってるのか、本人が知らないのはやっぱり気持ちが悪いし」 わたしは知らず眉を寄せた。 「固定アングルですから、あまり配慮のない画像かもしれません。場合によっては画像の方は破棄して音声データだけ使うことになるかも。…藤波さんが特定できないように加工した後のものだけにしますか?見るのは」 彼女はきっぱり断言した。 「両方。素材も編集後も、ちゃんとこの目で確認したい」 わたしは頷いた。
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