第3章 クローゼットの中の敵

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「見て、不快な思いをされたら申し訳ないんですが。わかりました、この場では何ともし難いんで、後で両方のデータをわたしに送ってもらってから藤波さんに転送します。それで如何でしょう」 「OK、それでいいわ。あなたならわたしの映像を見て愉しんだりしないでしょうし」 わたしは肩を竦めた。それは竹田に対しての皮肉なんですか? 「こいつだって、ちゃんとした奴ですよ。信用して大丈夫です。自分には何の得にもならないことに身体を張ってくれたんだから」 彼女は改めて我々二人をまじまじと見た。ややあってふっと微笑む。 「…本当ね。それなのにわたしなんか、自分のことばっか。…あなたたちはどうしてこれに関わることになったの?わたしみたいな目にあった子の関係者ってこと?」 「俺はまあ、そっちかな。知り合いがこれで学校を辞めたんで、いろいろ調べ出して。…こいつなんか、本当馬鹿なんですよ。お前ならできるって言われてその気になっちゃって」 わたしは鬼の形相で奴を睨めつけた。余計なこと言うなって。それじゃわたしがすごい偏差値低そうに聞こえるじゃん。 真凛さんは思わず、といった感じに声をあげて笑った。そういう表情を浮かべるとぱっと辺りが華やぎ、やっぱり女優だな、と密かに感心する。 「気持ちはわかるけど。でも、無謀ね。女の子がこんなことに関わって捕まったら、ただの退学じゃ済まないかもよ。最悪わたしたちと同じ目にあったかもしれないのに。…あなたも女の子をこんなことに関わらせちゃ駄目よ。危険だったと思う、本当に」 竹田は憮然として肩を竦めた。 「こいつを引き込んだのは俺じゃないですけど。けどまぁ、それで俺が現場に駆り出されたんですけどね。とにかく何があってもこいつを逃せ、最悪囮になってその場に残れってそれだけのための要員だったんで」 「やっぱり逃げる気なかったんじゃん!」 わたしは憤然とした。そこまで心配されなくてもいいよ。 「あたしなら絶対逃げ切れるってば。何でそんな風に考えるかなぁ。…まあとにかく無事でよかったけど」 わたしは大きく息をついた。竹田が一人で捕まって退学になったりしなくて、本当によかったぁ…。 「藤波さんのおかげです。わたしたちに気づいても見逃してくれたから、あのおっさんに言いつけたりしないで」 彼女は肩を窄めた。 「だって、やけにクローゼットから気配がするなぁと思ったから」 「冷静なんですね」
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