第3章 クローゼットの中の敵

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真凛さんは少し悪い顔でにっ、と笑った。 「だって、あなたたち。わたしが本当にあんな、欲情で我を忘れてるとでも思ったの?あんなん半分以上演技よ。…最初の頃は嫌々なのを隠さずに、所謂マグロみたいな無反応で通してたけど、そしたらその方がよほど…、感じてるように見せた方が結局、おじさん方も安心して早く終わってくれるのよ。感じてないってばれるとしつこいんだ、いつまでも長々と」 「ふわぁ、嫌だ…」 思わず身を捩って悲鳴のような声が漏れる。なんか、その話、生理的にちょっと。真凛さんは可憐な顔でけろりと言い切った。 「あなたも覚えておきなさいよ、将来役に立つかも。男の人をさっさと終わらせたかったら自分も気持ちいい振りして激しく反応してあげればいいのよ。あっという間に終わるから」 「ヘンな話吹き込まないで下さい、こいつ初心なんですから」 慌てて口を挟んでくる竹田。何だよ、お前なんか関係ないじゃん。 「別に平気だよ、これくらい。大体未経験なのと初心なのをごっちゃにするなって。わたし、あんたたちが思うほどデリケートじゃないよ」 「いやそうじゃなくて。…今の会話、男にはきついよ。聞きたくなかった…」 椅子の上で頭を抱えて呻く。 「今後、激しく反応してくれても、いや待てこれ、俺を早くいかせるための演技かも、とか絶対考えちゃう…」 「知らんわ」 好きなだけ考えろ。てか、ちょっとは考えて悩んだ方がいいんじゃないの。いい薬だ。 真凛さんはわたしと竹田のやり取りを面白そうに眺めていたが、ふと何かに思い当たったように顔を引き締めた。 「…それで。あなたたち一派は、学校のこういう接待を止めさせたいって考えてるわけ?」 「…そりゃまあ。あんまりいいこととは…、思えないですけど。とりあえずは学費を理由に不本意に無理強いさせられる学生がいなくなればいい、とは思いますが」 「うんまあ、それは尤もね」 何故か物思わしげに首を傾げる。わたしは微妙に引っかかり、思わず尋ねた。 「藤波さんも、奨学金を止められたことがきっかけで?」 「そう。裸の写真を撮られて、何のため?と不審には思ったけど、その時はとにかくこれで何とかなった、と…。ずいぶん経って忘れた頃に呼び出されてその写真を見せられ、これを学内の男子に無作為に送られたくなかったら協力しなさいって言われた時の気持ちって言ったら」
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