怪談DJシリーズ「踏切」

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「今夜も長時間お付き合い頂きまして、ありがとうございました。それでは、お休みなさいませ」 締めの言葉の後、エンディングの音楽をフェードアウトし、配信を終了する。 ヘッドセットを外し、ふーっと大きく息をついた。 隣で転がりながらヘッドフォンでテレビの音声を聞いていた相方が、私の方を見て「終わった?」と尋ねてきた。 「うん、終わった」 大きく伸びをしながら答えると、相方もホッとしたようにテレビの音量を戻した。 「ホント、お前って怖い話好きなのな」 「こればっかりはヤメラレナイねぇ」 新しくコーヒーを淹れなおし、座椅子に深く腰を沈める。 「そう言えばさ、お前のしゃべってるの聞きながら思い出したんだけど、その手の話、もう1つ知ってたわ」 と、自衛官時代の話を語り始めた。 相方が勤務していた基地には敷地内に線路が走っている。 線路の反対側にも基地の敷地があり、そこへ夜間に機材を運ぶためトラックで移動することもあるそうだ。 この線路の踏切を、夜間に通過する事を嫌がる隊員がいると言う。 深夜1時過ぎ、件の踏切に差し掛かると、終電はとっくに終わっている時間なのに遮断機が降りてくる時がある。 点検走行でもしているかのかと待っているのだが、いつまで経っても電車が走ってこない。 暗闇の中、ただ踏切の警報灯が不気味に点滅を繰り返し、カンカンという甲高い音が響く。 故障かと思っていると、線路の向こうから電気もつけていない真っ暗な電車がやってきて、目の前を通過する。 また、同じ踏切から見える駅のホームに、女子高生が1人で立っている事がある。 話しによれば、以前に駅のホームから電車に飛び込んだ女子生徒の霊で、じっと恨めしそうな表情でこちらを見ている。 電車も女子高生も、見ている相手に対して何かをするわけではない。 だが「何もしない」という事自体が、気味の悪さを増長している。 その薄気味悪さが様々な訓練を経験し、屈強な精神力と肉体を持っているはずの隊員達までも恐怖させたと言うことか。 考えても見て欲しい。 周囲に明かりもない真夜中に、人気のない駅のホームに立ち尽くす女子高生。 そのすぐ側を通過しなくてはいけないのだ。 電車にしてもそうだ。 自分の理解の及ばない「何か」に対して、人は最悪の創造を働かせてしまう事が多い。 あり得ない時間に走る、真っ暗な電車。
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