第1章

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 クアラルンプール市内を歩いていると道端に小銭が何枚か落ちていることが気になった。 試しに拾い上げて見ていると現地に詳しい知人に捨てておくようにと注意された。 訊くとこれは華僑の風習だと言う。 華僑ではお金を捨てることで積った不幸を無くせるとという考えがあるらしい。  また別の日にその道を通ったら小銭はなくなっていた。 物乞いに拾われていったのだろう。 一時の豊かさを得るために他人の不幸を拾う彼ら。 他人の捨てた不幸は結局彼らに集まっていく。 因果なのかと輪廻なのか。  とは言え、お金を落とすという不幸を演出して救われようとする……、面白い文化だ。  僕は十セン硬貨を指で弾く。 硬貨は縦回転を伴いながら弧を描いて異国の宙を舞い、そして地面に落ちることなく街路樹の枝に引っかかった。 僕の不幸は誰の手にも渡らなそうだ、と僕は少し安心した。
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