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《●月▽日 天気・晴れ》  うちの看板メニューは、フライ。肉を高温の脂で揚げ、濃いソースをたっぷり絡めて食べる。仕入れた肉の鮮度があまりにも良いと、少しためらってしまうような調理法だ。質の悪い肉でもまあ食べられる味にはなるのだが、逆に肉本来の甘みや旨味を損なうやり方でもある。  一流の料理人を自負する者なら、こう言って私を非難するかもしれない。しかし、うちは所謂ファーストフードの店なのだから、揚げ物や濃い味のものがメインとなるのは仕方が無い。というか、ファーストフードだから安くて固い肉を使うべき、という考えがそもそも間違っていると思う。健康上の問題は別として、良い材料を使い丁寧に作れば、立派なご馳走だ。嘘だと思うなら、その辺のチェーン店の揚げ物と食べ比べて見てほしい。値段は高いかもしれないが、味では絶対に負けない自信がある。  朝七時過ぎ、私は店に隣接する倉庫へ向かう。材料の肉は生きたまま仕入れるのが私流だ。その方が新鮮だし、腐る心配も無い。倉庫の中では、店の従業員であり私の助手でもあるアリサが、今日使う肉を処理していた。 「店長、おはようございまーす。……あのぅ……、困ったことがあるんですけどぉ……」  間延びした声で挨拶してから、可愛らしい眉を潜めて私を見る。頭の後ろでぴょこぴょこ揺れるポニーテイルは、アリサのトレードマークだ。  アリサの正面には、まだ子供の『男』達が十匹程、ずらりと一列に並んでいる。アリサは屈んで、左手に血の付いたボウル、右手に鋏を持っていた。ボウルを『男』の股間の辺りに持って行き、鋏を素早く動かす。一瞬後には、貧弱なペニスがボウルの中に落ちている。いつもの光景。流石に手馴れている。人間のような感情は無いくせに痛みを感じているのか、『男』は両目から涙を流していた。 「ね? 小さいでしょう?」  アリサが不満げな顔で私にボウルを突き出す。 「ああ、こりゃ酷いな」  私もそう言わざるを得なかった。十本の生ソーセージはどれもこれも非常に小さくて、とても正規の値段では売れそうにない。 
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