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どんよりした空を見上げ、私、香月舞は大きく溜息をつく。
「雨、やまないかなぁ…」
「…まだやみそうにないな」
「う~…」
口を尖らせる私を見て、幼馴染の篠宮斎が微かに笑った。
斎がこんな風に笑うことなどあまりなく、レアな表情が見られたにも関わらず、私の不機嫌は直らない。
せっかく、久しぶりに斎とテニスができたのに。
雨のバカヤロー!!
私はまだ当分やみそうにない雨に、悪態をつく。
夏休み、斎の通う蘇芳館高校へこっそり潜入し、強豪である男子テニス部の練習を見て触発された私。
久しぶりに斎と打ち合いたくなってしまい、そんな私を察してくれた斎は、快く了承してくれた。
私がラケットを握るのは、おそらく二年ぶり。
最初は勘が狂っていても、身体に染み込んだ感覚はすぐに戻ってきた。
斎は私のクセも、得手不得手も、全て把握してくれていたから、私はすぐに以前のようなプレイをすることができた。
斎と打ち合うのは、やっぱり嬉しい。
コートを前後左右に走り回ってボールを追いかけるのは、たまらなく楽しい時間だった。
それなのに、しばらくすると雲行きが怪しくなって、空は段々暗くなっていく。
嫌な予感は的中し、すぐにザーザーと激しい雨が降り出してしまった。
「あ、斎、濡れてるよ」
僅かに雨避けがついている場所に避難している私達だけど、強い風が吹くとその屋根も全く関係ない。
おまけに狭いスペースだから、身体の大きい斎はどうしても濡れる範囲が広い。
私はタオルを取り出し、斎の濡れた部分を軽く拭いた。
「悪い」
「いえいえ」
そして、またぼんやりと二人して雨を眺める。
遠くの空はすでに明るくなってきている。
夕立だから、すぐにやむとは思うんだけど…。
さっきまであんなに暑かったのに、雨が降ってきた途端、急に冷えてきた。
汗が一気に引き、またそのせいで、よけいに寒さを感じる。
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