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「寒いか?」
「え?…あ、平気、大丈夫!」
「ヤセ我慢するな」
そう言うと、斎はバッグの中からジャージを取り出した。
『蘇芳館高校男子庭球部』と背中にロゴが入ったジャージ。
白が基調で、濃いブルーのラインが入った爽やかなデザインだ。
「着ろ」
「えっ!いやいや、それは斎が着なくちゃ」
「俺はいい」
「斎は選手なんだから、身体冷やしちゃダメだよ!」
「俺は大丈夫だ」
なかなか応じようとしない私にしびれを切らし、斎は強引な手段に出る。
「鳥肌になってる状態で強がっても、無意味だな」
「…」
私の背後から無理やりジャージを羽織らせた。
ここまでされては意地を張っても仕方ないと、私は折れることにした。
「…ありがとう」
「…」
観念して、ジャージに袖を通す。
斎のジャージは大きくて、私にはぶかぶかだ。袖から手が出てこない。
丈ももちろんデローンと長くて。
でも、とても暖かい。
小さい頃からいつもそうだ。
斎は自分のことよりも、まず私の心配をしてくれる。
こうやっていつも庇ってくれる。
幼馴染の私でさえ、そうだ。
彼女なんかいたら、きっとめちゃくちゃ大事にするんだろうなぁ…。
「…っくしゅっ!!」
ぼんやりそんなことを思っていたら、いきなりくしゃみが出た。
…あ~。
どうりでさっきから鼻がムズムズすると思った。
ちょっとスッキリ!
私がそんな呑気なことを考えていると、斎が心配そうな顔を向けてきた。
「まだ寒いか?」
「え?…あぁ、大丈夫ー!ちょっと鼻がムズムズしてただけだから」
「そうか」
「うん…っくしゅん!!」
って、言ってる側からまた?!
私は思わず自分にツッコミを入れる。
うわ、風邪ひかせたと思って、斎が気にしちゃう。
私がそう思って斎を見上げた途端、身体の自由が利かなくなった。
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