あしたも あたしを 愛してる? 第一節

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     *  逢瀬は円山町と決まっていた。  決まっていたといったところで、いつのまにかそうなっただけの話で、長いあいだにできたふたりの習慣のようなものだった。  ほかの街でもいいのだし、早紀子(さきこ)の部屋に行ってもいいわけだが、それでも円山町のほうが都合がいいことが多い。  ひとつには、早紀子が勤める芸能事務所が、青山の表参道からほどない路地の一角にあるから、ということがある。  芸能事務所と聞いて、ひとがどんなイメージを抱くかは知らないけれど、そこは社長がひとり、所属タレントが平均して四、五人、そしてデスク……電話番に経理、タレントのスケジューリング、接客、お茶くみ、つまり事務方の雑務全般を担う役、それが早紀子だ……ただそれだけのちっぽけな事務所。  そこにはふだん早紀子しかいない。  私と社長の水嶋とは古い仲で、奴が、ある売れっ子俳優のマネージャーをし、こちらはこちらでまだ放送作家の卵だったころからの付き合いだ。
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