雪之上雫1

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そこまで担任を非難し、軽蔑し、憤慨し。 心の中で落とすだけ落として、叩きまくって。 肝心な事に気がついた。 大事な事を見落としていた。それにようやく気がついた。 担任に異議を唱える生徒はいなかった。と言うより、異議を唱える事ができなかった。 異議を唱える前に、僕たちは気がついた。 ある事に、気がついた。だから誰一人、この担任に文句が言えなかった。 言葉が出てこなかった。 担任の事を散々言っておきながら、僕らも同じだ。僕らも酷い。 同じくらい酷い。 だって、高尾くんの席がない事に、今気がついたのだから。 一番後ろの高尾くんの席がない事に。 高尾くんの席の前の人も、横の人も。彼の席がなくなり、空白になっている事に、今気がついたのだから。 ようやく、担任のおかげで、気がつけたのだから。 高尾くんの持ち物や、上履きや、席や、座席表が存在してない事に。 名簿の名前や、荷物入れの名前が消えていた事に。 担任の行動を通してようやく気がつけたのだから。 僕らも、同じくらい酷かった。
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