雪之上雫3

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甘かった。僕は基本的な事を見落としていた。見落としてはいけないような事実を、見落としていた。見ようとしていなかった。 そもそもあの黒板の文字が、たかが悪戯だと決めつけていた時点から、甘かったんだ。現実から目を背けていたんだ。 あれは悪戯なんかじゃない。面白半分で書かれた文字なんかではない。 あれは予告なんだ。 犯人からのれっきとしたメッセージなんだ。そしてこれは現に今起こっている事件。人がいなくなると言う、とんでもない事件。 昨日まで、それらはあくまで仮定の話だった。 悪戯か、予告か。悪ふざけなのか、メッセージなのか。どちらかに決め付けるには確たる証拠が足りなかった。 事件性を裏付ける決定的な何かが足りなかった。 いやでも、そういう話ではない。 証拠が足りませんでした、で片付けていい話ではない。 悪戯ならそれでよし。笑って終わり。でもこれが仮に、本当に予告ならそれを予防できるだけの処置をすぐに取るべきだった。 決定的な何かが足りなくても、予防策を取るべきだったんだ。対応できるだけの警戒心を持っておくべきだったんだ。 集団下校じゃ足りない。全然意味がない。結局のところ生徒は下校した後に出歩くのだから。 嘘を付いてでも、生徒の親に電話して、子供を外に出さないように忠告すべきだったんだ。閉じ込めてもらうべきだったんだ。 殺人犯がうろついてます。感染症が流行ってます。 何でもいい。嘘だろうが何だろうが、とにかく外出を止めるべきだったんだ。
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