1283人が本棚に入れています
本棚に追加
むしろ残念がる生徒もいた。消される文字を名残惜しそうに見ている生徒もいた。
綺麗な字だからだ。綺麗すぎて写真に収めたくなるくらい。実際に写メした生徒は何人かいた。
本当にチョークで書いたのかどうかを疑うくらい。
巨大印刷機を持ってきて、黒板ごと刷り込んだのではないかと。そう思うくらい。
でも実際、高尾くんの持つ黒板消しで消えたのだから、チョークで書いたのだろう。印刷したわけではないのだろう。
それがむしろ感動的だった。きちんと消えた事によって、チョークで書かれたのだと証明される。
機械の力なのではなく、人が書いたのだと。間違いなくチョークで書かれた文字なのだと。そう証明される。
その証明が感動的だった。
「よーし。ホームルーム始めるぞー」
高尾くんが黒板の文字を消し終わったと同時、担任の先生が入ってきた。
僕らは席に着いて、いつも通り出席を取る。
点呼を取る。
いつもの事だ。欠席していないかを確認するための点呼。どの学校でもやっている事だと思う。
今日も僕らはいつも通り返事をする。
当たり前みたいに。自分の名前が呼ばれると言う事が当然のように。
返事をする。
この時、僕らは思いもしなかった。考えもしなかった。誰も知らなかった。想像すらしなかった。
今日この日。この瞬間が、クラス全員で取る、最後の点呼になるなんて。
誰も知るはずがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!