雪之上雫1

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むしろ残念がる生徒もいた。消される文字を名残惜しそうに見ている生徒もいた。 綺麗な字だからだ。綺麗すぎて写真に収めたくなるくらい。実際に写メした生徒は何人かいた。 本当にチョークで書いたのかどうかを疑うくらい。 巨大印刷機を持ってきて、黒板ごと刷り込んだのではないかと。そう思うくらい。 でも実際、高尾くんの持つ黒板消しで消えたのだから、チョークで書いたのだろう。印刷したわけではないのだろう。 それがむしろ感動的だった。きちんと消えた事によって、チョークで書かれたのだと証明される。 機械の力なのではなく、人が書いたのだと。間違いなくチョークで書かれた文字なのだと。そう証明される。 その証明が感動的だった。 「よーし。ホームルーム始めるぞー」 高尾くんが黒板の文字を消し終わったと同時、担任の先生が入ってきた。 僕らは席に着いて、いつも通り出席を取る。 点呼を取る。 いつもの事だ。欠席していないかを確認するための点呼。どの学校でもやっている事だと思う。 今日も僕らはいつも通り返事をする。 当たり前みたいに。自分の名前が呼ばれると言う事が当然のように。 返事をする。 この時、僕らは思いもしなかった。考えもしなかった。誰も知らなかった。想像すらしなかった。 今日この日。この瞬間が、クラス全員で取る、最後の点呼になるなんて。 誰も知るはずがなかった。
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