第四章 「十二月の二人」

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公園の橋の中央で、僕たちは佇んで、しばらくそのままでいた。通りすがる人たちは僕らなんて眼中にない。そのおかげで、僕らは二人だけの世界でお互いを見つめ合えた。 「春」 「なあに?」 ふわふわした気持ちで、僕の声は心なしか甘えている。何かを期待していた。恋人らしい何かを。 「この先もずっと、俺と一緒にいる覚悟はあるか?」 僕らの将来に、希望はない。でも、こうして一緒にいて幸せな気持ちで居られるなら、希望なんてなくてもうまくやれるかもしれない。 「弾さんが僕を愛してくれるなら、僕が離れる理由なんてないよ」 弾の鼻と頬が、寒さのせいか赤く染まっていた。 「お前の夢は俺が叶えてやる。家も、犬を飼うのも、子供だってなんとかなる」 「僕は弾が居てくれたら、他は何もいらないよ」 「俺もそうだ」 「それで、さっきからなんなの。公衆の面前でハグとかキスとかしてくれちゃうわけ?」 「お前がそうして欲しいなら」 茶化したのに真剣に答えられるとこっちが恥ずかしい。今度は僕の顔が熱くなる。 弾は僕をそっと抱きしめると、耳元で愛を囁く。僕も答えるように彼の背に腕を回した。頬にキスを受け、目を瞑って待っていると今度は唇に触れるだけの柔らかいキスをくれた。きっと誰にも見られてない。見られたってかまわない。 「クリスマスプレゼントだ」 今の行為のことを言っているのだと思っていた僕は、弾がポケットから出したものにぐっときた。 「誰が何と言おうと、春は俺のパートナーだ」 僕の冷たい左手をとり、弾が十字架デザインのシルバーリングを薬指に滑らせる。 「それぞれ、お互いの名前を入れてもらったんだ」 弾も同じものを自分の左の薬指にはめた。 胸が熱い。 溢れるものをこらえるように鼻から寒い空気を吸い込んだ。 そのリングに触れて、目の高さまであげて指と指の間から愛しい人を見つめる。 これ以上、僕は彼に何を求めるというのだろう。 ふ、と口角があがる。 最高だ。 僕は彼の手を引いて、もう一度口づけをした。
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