第一章 「九月の二人」

3/61
前へ
/145ページ
次へ
このフォトスタジオアーニャはスタッフが僕を含めた四人しかいない。店長でカメラマンの香苗さん、ヘアメイク着付け担当の桜月さん、バイトの僕と、最近新しく入ったもう一人のバイト。まだ会ったことはないけれど、専門学校に通っていることは聞いた。 チェーン店が増えているこのスタジオ業界において、特に七五三をメインとした個人の写真館がやっていくのは中々に大変らしい。アーニャは庶民的な写真館だし、チェーンでないというと、もっと大きな写真館の方がうまくいっているといえるのかもしれない。それでも、アーニャが年々築き上げてきたお客様との信頼やサービス、というのはチェーン店では決してできないこともあるのだ。何よりも違うのが、撮影時間を一組ずつしっかり確保すること。当日のアクシデントにおいて、撮影の延期だけでなく、撮り直しもしている。そして、撮影時においては、レンタル衣装を――お子様の体力が続く限り、何着でも着ていいよという親切設定。ついでにいうと、ある程度の融通もきいたりするので、料金的にもかなり安く済むスタジオなのだ。おかげで、スタッフの労働はその分増すわけである。 荷物をスタッフルームに押し込み、僕はセット台を片付けた。昨日の撮影で使ったままと思われる髪飾りやヘアピンをしまい、今日使う髪飾りを並べていく。今日は撮影ではなく、七五三のお出かけの日である。そのためカメラマンの香苗さんは受付の仕事だけに対し、次々とくる子供のヘアメイクと着付けをしなくちゃいけない桜月さんは一年の中で一番忙しい日だ。 店の扉が開く。 「おはようございます」 黒縁の眼鏡をかけて髪を団子にした女性が入ってきた。ああ、多分、新しいバイトの人だ。 「るりちゃんおはよう」と店長。「この子が新しい子。前に話した服飾の専門いってる子」
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加