第一章 「九月の二人」

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「初めまして。大野るりです」 「橘春です。春って書いてしゅん」 「女の子みたいだよね。妹は秋って書いてしゅうちゃんなんだって」 「夏と冬もいるんですか?」 「いや、さすがにいない」 あ、ちょっと笑った。大野さんは今は表情が硬いけど、多分、もう少し仲良くなったら楽しく話せるタイプだと思う。歳も近いと思うし。 「多分春くんが一つ上じゃないかな?」 心の中を読まれたのかと思った。 「今年で二十歳です」 「あ、じゃあ成人式ですね」 「そう! るりちゃんはうちで写真撮るんだよね」 「はい」  軽く返事をすると、大野さんは荷物を置いて、今日お出かけする子供たちの写真と名前をざっと見た。  「春くんとるりちゃんにヘアメイクをしてもらって、着付けは桜月さんにして もらいます。春くんは基本男の子だけど、たまに三歳さんもやってもらいます。るりちゃんが女の子全般ね」  「わかりました」 「もしかすると、春くんには袴の着付けお願いしちゃうかも」 「了解です」 できるだけ自分がやるから、と桜月さんが自分の胸をたたいたところで、今日の最初のお客さんが来た。 おはようございます。おめでとうございます。各々が言葉をかけ、最初に来た子供の名前を呼ぶ。七歳のみつきちゃんに、五歳のきょうごくんだ。妙にテンションの高いきょうごくんを先にトイレに行かせて、お姉さんらしくしているみつきちゃんは、肌着にお着換え。七歳の女の子は、もう大人びてきているから、僕はもちろんカーテンの外に追い出される。元気よくトイレから帰ってきたきょうごくんは、手を洗ったのか? 「ちゃんと手、洗った?」 「うん!」 「じゃあ、襦袢だけ着ちゃってから、髪の毛かっこよくしようか」 五歳にカーテンはいらない。その場でばばっと長袖とズボンを脱がし、襦袢を簡単に着せる。小さな足袋もはかせて、セット台へ。 「今日どうしようか。ツンツンかふわふわか」 きょうごくんのお母さんを手招きし、一緒に決めてもらう。 「きょうごの好きなのでいいよ」 「ツンツン!」 「オッケー」
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