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「全部お見通しですか。あなたは、怖い人だな」
「怖いなんて、そんな」
二人の間には、もう言葉はいらないようだった。
「縁談の相手があなたで良かった。今回の話は、こちらから断りの連絡をさせていただきますね。彼女にはもう一度話して、僕が彼女を支えます。うまくいけば、ですが」
苦笑交じりに、彼は頭を掻いていた。
「うまくいくといいですね。私も、勝負はこれからです」
言って、お互い笑った。
――――
「どうしても誰も助けられないことって、やっぱりあるからね。自分たちで解決しなきゃいけないことは、大人になればなるほど出てくる。そういうときはね」
そこで言葉を区切って、妹に顔を寄せた。
「懐柔するのよ。相手の思い通りにことを運ばせて、相手の思惑の中に穴を見つけるの。透哉さんのことを今まで隠してきたのも、そのためだからね」
ウインクしてみせる。
「もし、透哉さんがうまくいかなかったらどうしていたの?」
妹は、納得いかないように首を傾げていた。
「彼を信用していたから、そんなことは考えなかったわ。彼の作品を見てから、彼の才能を疑ったことなんてなかったもの」
私は自慢げに鼻を鳴らした。
「女は黙って、男についていけばいいの。必要なことだけ話せば、ちゃんとゴールまで連れていってくれるんだから」
両親の元で、教養を与えられて、生きる術も教わって、花嫁修業もさせてもらった。
私はその箱の中で良い子に育てられているように演じながら、欲しいものを手に入れるように働きかけただけのこと。
「真美も、自分の幸せは自分で掴むのよ。困ったら、お姉ちゃんが相談に乗ってあげるから」
「うん!」
真美は嬉しそうに声を上げた。
そうして私は、1年後に結婚をする。
言われるがままに大人になった、この町で。
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