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縁談
友達と遊ぶよりも、勉強。
良い大学を出て、良い男性とお付き合いをして、幸せになりなさい。
それが、我が家の教えだった。
お嬢様という家柄でもなければ、さして裕福なんてほどでもない。父は公務員、母は高校の非常勤講師。体裁だけはやたらと気にする、そんな我が家は窮屈だった。
「お見合い?」
そんな話が舞い込んできたのも、だから想定内ではあった。
「へー、今時そんなのあるんだー」
呑気な真美(まみ)の声が、お茶の間に浮かぶように響いた。一家揃って食卓を囲んでいるところだった。
「恭子(きょうこ)も銀行に就職して2年が経つし、そろそろ落ち着いてもいい頃だろう」
ご威光なんてどこへやらの父親の禿げ頭を見ながら、分かり切っている言葉の続きを慎ましやかに聞き流していた。
両親が結婚したとき、母は23歳だった。
妹の真美は今年、高校三年に上がる。
「相手は、近藤さんとこの息子さんだ」
近藤さんというのは、隣町の役所に勤めるお偉いさんで、父がよく飲みに行く居酒屋の常連客。
近藤卓(こんどう すぐる)。一流大学に進学し、その後この辺りでは知らない人のいない大手企業に就職し、出世街道まっしぐらと噂の年上男。
名前くらいなら私も知っている。この小さな町では何もかもが筒抜けだ。
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