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「今日の見合い話はどうしたんだ」
失礼のないようにと、何度も父から言われていた。
「問題ないです。卓さんとは、ちゃんとお話をしました。近いうちにお断りの連絡が来るかと思います」
かしこまった口調で、そう告げた。お互いの事情はお互いが知っていればいい。そう、卓と決めたことだった。
「勝手なことを。近藤さんに合わせる顔がないじゃないか」
「だから、問題はありません。卓さんから、お断りの連絡が来るんです。私は、断られるだけで何も粗相はしていませんし、卓さんも納得済みです。これでも、何か問題がありますか?」
業務を伝えるように、私は冷静に告げる。
「あなたの負けよ」
そう言ったのは、母だった。
「主人に認めさせるために今日まで日を置いたようだけれど、お付き合いしてどれくらいになるの?」
母は、すべてを許容してくれているようだった。
「3年ほどになります。まだ恭子さんが学生の頃に、僕の工房に立ち寄ってくれたことがきっかけでした。認めていただくためでもありますが、僕の目標でもありましたので、焦らずにやらせてほしいと彼女に頼みました」
誠実に、そして無邪気に夢を追い掛けていた彼を、間近でずっと見てきた。
「そう。安定した生活とは疎遠そうに思えるけれど、恭子を幸せにする自信はあるの?」
母が真剣な目で彼を見据える。
「工房自体の知名度も上がってきて、比較的収入も落ち着いてきました。流通経路も確保されていますし、生活面でなるべく苦労させないようにするつもりです」
二人で、ずっと話し合ってきたことだった。
「私も仕事は続けるつもりよ。今までしてきた貯蓄もお互いあるし、元々、遊び方は学んでこなかったから、困らない。透哉さんがいれば、私は幸せです」
そう言い切って、父に目を向けた。
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