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「だそうよ、あなた」
母もまた、父を見やる。
「そんな勝手な…どれだけお前のためにやってきたと思っているんだ」
「恭子のためじゃなくて、自分のためでしょう」
母がきっぱり言い捨てる。
「体裁ばかり気にして、やりたいことにも一切耳を傾けようともせず。それに今まで従ってくれた恭子の方が、ずっと大人だと思うわよ」
“女は一歩下がって”なんて言っていた父は、いつになく小さくなっていた。
女はここぞという時は逞しいものだ。母も、私も。
「近いうちに、町でも透哉さんもその工房も有名になるわ。忙しくなる前に、ご挨拶に来てもらったけど、結婚はその波が少し落ち着いてからのつもり」
“結婚”という言葉に、父が過敏に反応した。
「まだ認めてなどっ」
「もう私たちだけで婚姻届は出せます。でもせっかく有名な工房の稼ぎ頭よ?お父さんだって、鼻が高いと思うけど」
そこまで言うと、母が目で私をたしなめた。
「手塩にかけた娘がちゃんと考えて決めたことなら、私たちは口を挟みません。その代わり、これからはちゃんと話しなさい。反対はしないから」
そう言って、母が話を切った。
「今日は、透哉くんも夕飯食べていきなさい。あなたも、意地張ってないでちゃんと話して下さいね」
父は、バツの悪そうな顔でお茶を啜っていた。
一連のやり取りを黙って見ていた妹を見やると、満面の笑みで返してくれた。
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