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お見合い
ついにやってきた、お見合い当日。
いつになく化粧を綺麗に施して、この日のためになのか用意された着物に袖を通す。
いつかはこんな日が来ると分かっていた。お見合い結婚という言葉ももう聞かなくなったような現代でも、きっとこんな日が来ると。
「恭子、いいのね?」
着付けをしてくれた母が、珍しくそう私に問いかける。
「うん。大丈夫」
私は、それだけ言って笑って見せた。母は、少し心配顔でこちらを見ているようだった。
「準備はできたか?」
障子の向こうで、父が様子を窺(うかが)いに来た。私は「はい」と返事をして、部屋を出たのだった。
――――
お見合い会場には、この町唯一の温泉宿の一室が用意されていた。
ちゃんと顔を合わせるのは初めてだった。噂通りの、スマートそうな顔立ちと、食事中の綺麗な所作も洗練されたもののようだ。
お互いの両親は話もそこそこに、“あとは若い人同士で”なんてありきたりの言葉を並べて部屋を後にした。
父は去り際に、“粗相のないように”と念を押していった。
「恭子さんは、このお話をどう思われていますか?」
静かに切り出したのは、相手の卓だった。
「どう、とは?」
こちらの真意を読まれないように、表情を変えずに問い返した。
「いや、その…お見合いを申し出たのはたぶん、うちの父からでしょうから。今時、両親に結婚相手を決められるのはどうなのかと思いまして」
少し、含みを感じた。彼は、この見合い話に乗り気ではないのだろうか。
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