お見合い

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食事を終えると、“少しだけ”と彼は旅館の庭園に足を向けた。 「僕にもね、気になる人がいたんです。少し前ですが」 何の前触れもなく口を開く彼は、私の前を歩きながら、池に視線を向けていた。 「彼女は、まだ自分に自信がないのか、彼女の意思だけで行動することができないようでした。内気な人で、口数も少なかった。だけど、両想いだったことだけは、嘘ではないと思うんです」 なぜ、こんな話を私にするのだろう。よく喋る人なのだな、と思いながらその背中を見つめていた。 「本当のところは分かりませんが、許婚のような相手がいるようでした。彼女の目がね、あなたと被って見えたので。差し出がましいお話をしてしまってすみません」 こういう人もいるのか。 心のどこかで感心する自分がいた。話すつもりのなかった言葉が、口をついて出てくる。 「すみません。そうなんです」 そう切り出す私に、一際強い風が吹き抜けた。
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