ふれて

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彼は手を止めない。指先で耳に沿ってくるりと触れ、耳たぶを親指と人差し指と中指で産毛まで感じているように優しく揉みほぐす。十分に耳が熱を持った後、拡散させるように指全体を首筋にぺたりとつけて這わせ始めた。鼓動がどくどくと大きな波となって全身に響く。 「はっ…ん…」 疑う余地もなく、性的に高められていた。腰はすでにじっとりとした熱を抱えている。 「俺はね、好きなものに対しては貪欲で、気持ちのいいものには理性で抗えないんだよ。いいか悪いか、判断する前にもう触ってる。途中でやめたりしないよ」 頸動脈の薄い皮膚の上に指を置きながら何を言い訳がましいことを言っている。『止めるなら今だ』という意味で言っていることはすぐに分かった。こんなところで止めるきっかけを探しているのかと思うと苛立った。誰にも晒されていないもっと細やかな張りのある肌を、あなたはもっと触りたいはずだ。貝瀬の大きな手に自分の手を重ね、首筋を通って胸元に向かって誘導する。 「やめなくていい。もっと俺に触れたくはありませんか?表に晒していない部分はもっとずっと触り心地がいいですよ。もっと好みの手触りがあるかもしれない」 目元が笑って、動いたのは指先ではなく彼の顎先だった。濡れた唇が鎖骨の間に触れた。唾液を広げきゅっと吸い付かれる刺激に胸を反らせる。小さなキスを繰り返しながら喉元を辿り、顎を伝って、やっと唇が甘やかな感覚で満たされた。 いつも見ていた唇は思ったよりも柔らかく、熱を持っている。自分で誘っておいて、全く予期していなかった行為に頭も体も追いつけない。指先よりも乱暴な唇に喰まれると、視界が霞がかる気さえする。
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