ふれて

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「やっぱり手触りのいいものは向こうから誘ってくる」 顔を間近に寄せたまま囁かれ、その色気にくらくらした。貝瀬の人差し指が唇に当てられ、感触を辿るように左右にゆっくりと動く。口を薄く開けて隙間から舌を突き出し、舌先を小さく上下させてその皮膚を舐めた。『よくできました』と言わんばかりにやわからく笑いかけるから、今度は指の節に沿って横に舐めた後、ぱくりと口に含み唾液で濡らした。貝瀬の指の形を記憶するように舌で観察し、口内で転がし、やわからく歯を立てて固定して舌先で撫でた。この指がうっとりとするほどの刺激を与えるのだと思うと愛おしく、いつまでも離したくなかった。 指がゆっくりと抜かれると、代わりにちゅっと軽い音を立てて唇が落とされた。 「店閉めてくる」 そう言って貝瀬は立ち上がった。 かくして、俺には骨董屋の恋人ができた。あの時点で『交際』など全く考えていなかったが、俺の恋人は案外古風な考えらしい。 「こういうことは、俺、ちゃんと付き合う人としかしない」 「えっ?体の相性とか悪かったらどうするんですか?」 俺たちはまだ最後までコトを成していない。あの後貝瀬は俺の手を取り初めてカーテンの向こうに引き入れた。普段寝ているという革張りのソファーに深く座り込むと、向き合うようにして俺を自分の膝の上に跨らせ、すぐにTシャツの裾から手を差し込んだ。 身体中をするすると這い回る今までになく欲を持った手に、俺は息づかいを乱し、ため息に混じらせ声を上げ、あまりの快感に朦朧となった。貝瀬は唇以外にも襟元に胸元に脇腹にあちこちキスを降らせた。こんな状況で溶け出す腰に気づかれないわけはなく、とろめいたものを事もなく引き出され、丁寧に擦りあげられ貝瀬の手の中でイった。
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