ふれて

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「おまえ、そういう顔するとつけ込まれるよ」 あなたにならつけ込まれてもいい…、とは、言えなかった。 手の甲の上を辿る骨ばってごつごつとした男の手。その大きさや粗野な感じからは全く思わせぬ繊細さで、指は柔らかに皮膚の表面を行っては戻る。産毛の流れを整えるほどにしか圧を感じさせないソフトなタッチが、必要以上に受容器官を敏感にさせる。何度も、まるで愛しむかのように、時に節を過ぎて指を撫で、時に手首を過ぎて袖口から侵入する。 人の厭らしさを感じさせない単なる嗜好を示すその動きは、それでも性的なものを匂わせる。触れられたところから熱が伝わり、体の芯を震わせる。さわさわと肌が粟立ち、ぐずぐずと沸き立つ欲に胸が騒ぐ。もっと、もっと触れて欲しい。 肌にばかり熱っぽい視線を注いでいた男は一瞬俺の顔を見て、先の言葉を発した。自分がどんな顔をしていたのかわかる。恍惚を必死に隠しながら溢れさせ、誤魔化せる程度に先をねだるあからさまな顔だ。 男の誘い方など知らない。あなたになら付け込まれたい。少し。もう少しだけでいいから先へ連れて行って欲しい。 「その首筋」 ドキリ、と胸が大きく鳴る。 「そこも皮膚が薄くて手触りが良さそうだ」 今はもう、俺の顔ではなく襟元にまっすぐ視線が当てられている。射すくめるような視線に、思わずごくりと喉が鳴る。 指の感触をなくした手は途端に物足りなくなるけれど、ゆっくりと首筋に近づく男の手を見ながら、その手が与えてくれる溶けるような刺激を期待している。血管がひどく大きく脈打ち、さざめく肌は指が触れる瞬間を待っている。
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