ほどけて

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はじめは二の腕の裏側にさらさらと指を滑らせていたが、いつの間にか腰骨のあたりを観察でもするかのように撫でている。逃れるように背を向けても気にする様子はなく、手はさらに下を辿る。 「この手触りすごくいいな。ここ、なんて言うんだろう」 下着のウエスト部分を押し下げた手が戻る時、かすかに生え際に触れるほど、その手は遠慮を知らない。逆撫でられた感触がぞわりと体の芯に伝わった。疼き始めた体に感づかれないよう、息遣いを乱さないよう、さもなんでもないといった調子で答える。 「鼠蹊部じゃないですか?」 「違う。もっと上のへこんでるところだよ。程よく張りがあってキメが細かい。腰からのラインがぴったり手に馴染む」 そう言いながら、ゆるやかな手つきで慎重に愛しむように撫で上げる。そこだけじゃなく俺の体はすっかり貝瀬の手に馴染んでいる。どこを触れられても肌は喜び、俺の感情さえ軽率になおざりにして勝手に快楽を求め、貪欲に貝瀬の手を求める。 触れられたい、そして同時に嫌だと思う。彼が単なる嗜好を満たすとき、自分は快楽に酔い、さらなる深みを求めるなんてやりきれない。同じラインまで連れて来たい。やるせなく、どうしようもない切なさを知らしめたい。 「あ、ここ反応してる」 下着の上から膨らみを指ですっとなぞられ、びくりと体を震わせる。襟足に息を感じてすぐ、その場所で唇がちゅっと小さな音を立てた。 まったくこの人は…今ここでこれ以上煽ってどうする。そんなつもりもないくせに。 「好きな人に触られまくったら気持ちよくなるのは当然の反応ですよ。少しは自覚してください」 振り向いた勢いのまま貝瀬の膝の上に跨り、わざと欲望に騒つく腰を押し当ててやる。首元にゆるりと手をまわし、やたら大きく響く胸の鼓動が伝わらないよう軽薄な視線を投げかけ挑発する。それ以外にじっとりと重たい腰を紛らわせる方法が思いつかない。もういっその事押し倒されて犯されたい。
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