ほどけて

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貝瀬は怯んだ様子など全く見せない。色気のある厚めの唇に笑みを漂わせ、むしろ触りやすくなって良かったと言わんばかりにすかさずシャツの裾から手を滑り込ませた。さっきまでのするするとした軽やかな手つきとは全く違う。欲を持った男の手を感じて、俺の肌は体内にじっとりした快感を伝えるのを止めない。指先は熱を求めるように肌の上を這い回り、体を侵食していく。ねっとりと脇腹に手が伝い、心まで絡め捕るほどなまめかしく胸までさすり上げられる。 「はぁっ…あっ…」 行き場のないため息が漏れた。触るという以上の行為をするつもりはないくせに、欲望ばかりを掻き起こすからたちが悪い。意地悪に報復するため、ゆっくりと腰を擦りつけるように揺らして快感を与えられていることを知らせてやる。 「おまえなぁ…、店閉めたくなるだろ」 「貝瀬さんが…触るからでしょ。俺、知りませんよ、お客さん来ても。どうせ放り出すなら、今離してください…」 「無理だな。こんな手触りのいいもの離せない」 首筋に濡れた唇が落ちてくる。脈打つ場所を唾液で濡らしながらちゅうと吸い付く。貝瀬の唇は手よりもずっと荒々しくて愛欲を隠さない。 「んっ……」 わずかに顔を離し、手と唇に浮かされた俺の顔をすぐ間近でじっと見ている。濡れた唇はすぐそこにある。 「ほんとタチ悪い」 恍惚に濡れているだろう目で見返して、小さく呟いてやった。 「どうしよう。すごい好きだ」 人の話を全く聞いていない。 「『俺の体が』でしょう」 「なんかその言い方違う意味に聞こえるな…。拗ねるなよ。好きだよ、渉」 唇の表面で軽い音を立てから色気のある顔が離れていった。なだめるための『好き』だと分かっていても、はっきり言われて悪い気はしない。でもこんな風に好意を適度にわかりやすく示すのは十三も年上の大人のやり方だと感じる。大人気なく俺の躰を触りまくるくせに…。 付き合おうと言ってきたのは貝瀬だ。この男が好きでもない同性とわざわざ付き合うタイプではないことは知っている。でもそれ以上に俺の肌の触り心地に執心しているように思えてしまう。直接的に聞いてみたら『俺の最重要事項を最大限に満たしてるんだからいいことじゃないか』とあっさり返された。
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